またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく       岡野弘彦



 人間たちの不毛な営み。暗き踊り。
 拡がるところまで拡がって、それぞれの輩が輪という概念にぴんと来なくなるまでに巨大に拡がれば、この行為の不
毛さに気付き次第に踊りは勢いをなくしていって、踊っていることにためらいが生まれるのだろうけど、でもみんなが踊
っているから自分だけ踊りをやめるわけにはいかない。
 踊っている場所はあまりに暗くて、自分の足元さえよく見えない。ときどきおかしな感触がある。きっと小動物や野草を
踏み潰しているんだろうと思う。踊りの参加者のひとりひとりが踏んでいるということは、いったいこの輪全体ではどれだ
けの自然が犠牲にされていることだろう? それでもやっぱりみんなが踊っているので、自分だけ踊りをやめるわけに
はいかない。
 おおーい、だれか「やめよう」って言えよぉ。だれかぁ。


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