おなじ地におなじ木ならび今日もまたおなじ葉と葉とあひ触れて鳴る  尾上柴舟



 変わらない日常ほど素敵なものはない、などと思う。最近やけにそんなことを思う。
 とはいえ、歌人のそれと僕のそれではかなり意味が異なるはずだ。僕のそれには、多分にモラトリアム的なものが含
まれているからである。僕の場合、「変わらない日常こそすばらしい」という賛美ではなく、「日常よ変わらないでくれ」と
いう願望のほうが大きい気がする。
 この短歌にはなんとなく感動したけれど、そういう点で作者と僕の心情は決してシンクロしてはいないのではないだろ
うか。「これがいい」と「これでいい」の違いみたいなもの。
 結局のところ僕がどんなに願ったって、これほどの安息の立場は四年未満で修了してしまうのだ。そして次にそれが
得られるのは数十年後になってしまう。なるほど、だから本質は違えど、歌人の感動を伝える言葉に僕は感動したの
だ。大学生と歌人は、どちらも押し並べて風流だから。
 そういえば高校時代、今と違って受験とかでいろいろ悩まされていた頃だ。つらい気持ちになっていたとき、担任教師
から『社会に出たらもっとつらいんだ』みたいな説教をされて、本格的に落ち込んだことがある。
「今すごくつらいのに、社会人になったらもっとつらいだなんて、一体ぼくはなんのために生きてるんだ」

 この短歌は、物語というよりは人生論のようなものを想起させる。それはあまりに警句っぽいとただの標語みたいに
なってしまうから、この歌のようなバランスを取るのはけっこう難しいんだと思う。
 うん、バランスを取るのって本当に難しいのだ。


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