第4回  3月第2週 「世界と物語世界と創作で平和」



読了本
  宮内勝典『ぼくは始祖鳥になりたい 上・下』(集英社)
  西澤保彦『完全無欠の名探偵』(講談社文庫)
  三浦しをん『ロマンス小説の七日間』(角川文庫)
  高榎尭『地球の未来はショッキング!』(岩波ジュニア新書)



 9冊もの本を鞄に詰めておきながら、ほろ酔い大貧民だった合宿においては、結局3冊(一段目を抜かした3冊)しか
読むことができなかった。無駄な労力以外の何者でもない。嬉しい誤算? どうだろう。

 宮内のそれは『宇宙的ナンセンスの時代』での取材を元にした長編小説である。
 けっこうおもしろかった。しかし正直なところ、『宇宙的──』のほうが好きかもしれない。そちらのほうが本としてまと
まっているように思う。『宇宙的──』が客観的なルポタージュであるのに対し、こちらはそれを材料にした作者の創造
なわけで、世界にアレンジが加わっている分、どうしたって感じ入れる度合は低くなってしまう。
 2つの本は、『事実が書かれそこから読者である僕が何かを感じる』のと『ルポをして作者が感じたことを物語にしたも
のを僕が読む』というのとで、根本的な性質が異なる。
 僕と作者の気持ちが完全にシンクロするはずがないのである。「事実は小説よりも奇なり」とはちょっと違うけれど、世
界のおもしろさを描きたいのならば、世界をそのまま書けばいいんじゃないか、とか思ってしまった。
 これは(一応の)創作者としてあるまじき発言のようだが、決してそういうわけではない。それならば僕が小説を読む
理由はなくなってしまう。無味乾燥なレポートだけを読めばいいことになる。
 ところが実際はそうじゃない。「創作」も「世界」も、僕はどちらも好きなのだ。
 要するにこの本は、そのふたつの観点において、ちょっと中途半端なのだと思う。「小説よりも奇であるはずの事実
を、むりやり小説にしたら無理が出てきた」、みたいな感じとでも言おうか。やろうとしていることはおもしろくって、創作
者としてはたしかにやってみたい感じはするのだけど、きっと相当に難しいのだろうと思う。成分バランスとかが。

 この話の流れで西澤保彦が出てくるのは、まったく狙ったわけではないけれど、なかなかよいと思う。
 西澤保彦を読んでいて感心するのは、「下手な作家がこの設定で書いたら、全編を通して作品世界内のルールを理
解できないまま読み終わってしまうのだろうなあ」というところだ。
 西澤の作品にはけっこう設定が特殊のものが多いのだが、とにかくその説明が抜群に上手いのだ。物語を読み進め
ながら、同時進行ですんなりと理解できる。
 だからそれはつまりバランスがいいってことなのだ。西澤は物語の中で特殊な「世界」を創造するけれど、そこでの登
場人物がその特殊さに拘泥することはほとんどない。設定は設定。世界は世界。たしかにその世界はおもしろいけれ
ど、ぐだぐだとそれにこだわっててもおもしろくないし、「それよりはとりあえず殺人事件について考えようよ」みたいなノ
リなのだ。読者の僕らは物語世界のおもしろさに感じ入るけれど、小説においては事件や謎についてばかりが言及さ
れる。だから西澤のそうした作品群を読むと、僕ら自身がその世界に入り込んでミステリを読みつつ、頭の片隅で「あ
あ、それにしてもなんて世界はおもしろいんだろうか」と感嘆するような、なんとも特殊な感触があるのだ。
 こんな作家ってそうそういない。他には東野圭吾とか恩田陸とかが浮かぶ。才能だなあ。

 三浦しをんのそれも、「世界と物語世界と創作と」って感じと言えなくもない。彼女の書き物を読むたびに思うことだ
が、題材から文章まで、いかにも本読みらしさが滲み出ていると思う。そして「やっぱり小説をたくさん読むと、『小説っ
て何がおもしろいのか』のセンスが磨かれるんだろうな」って思わせる。とにかく本読みのツボをうまく押さえているの
だ。彼女の小説はどれも、どこか「ぼんやりと思う理想の小説」に掠る感じがある。小憎らしい。
 純粋にすごくおもしろい小説だった。ちくしょう。悔しい。

 さて。岩波ジュニア新書なんぞを読んでしまった。ジュニアって言うくらいだから本来は中学生あたりに向けて書かれ
ているのだろうな。核やら環境やら人口やら、地球レベルの危機について書かれた本。当時学校でこういうことを教え
られてもピンと来ず、そのままで来て、最近になって自覚を持ち始めてきた(遅い)ので、導入として読んでみた次第で
ある。
 読んでみた感想として、はっきり言って「地球平和」なんてものは期待できない。「世界平和」の自分のなかでの具体
的な定義なんかまだ持っちゃいないが(大学生にもなって)、なんとなく、「人間」と「平和」は対義語でさえあるような気が
するので、僕が生きている間にそれが訪れることはないと思う。
 人間には欲がある。欲があると争いが生まれる。争いは平和ではない。だから人間は平和を絶対に生み出さない。
そして僕は人間である。人間は平和を絶対に生み出さない。ゆえに僕が生きているうちに平和は訪れない。三段論
法。いや待てよ? この理屈には穴がありやしないか? 世界が僕一人だったら争いは生まれないから、僕が生きて
いるうちに平和が訪れることはありうるかもしれないぞ? ……ふにゃふにゃ。平和ってなんだろ。
 とりあえず環境保全だけは気にして生きていこう。それが間違いってことはないだろうし。



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