第3回  3月第1週 「まぼろし」



読了本
  東野圭吾『幻夜』(集英社)



 なんてこったい。一週間で一冊しか本が読めないとは。
 まあマンガの〆切があったのだから仕方がないのだとは言える。けれどもこの本にも原因がある。この本を読み終わ
ったのは火曜日のこと。そのあと、しばらく他の読書をする気分になれなかったのだ。
 それだけこの本が衝撃的だったのである。圧倒的すぎる大作を読んだあとは、けっこうこんな感じになったりする。頭
の中がそれで一杯になって、他の本に思念が向かわない。かなりの文量なのに引っ張られてぐいぐい読まされるので、
読書脳が疲れるんだろうと思う。いつものジョギングは家の周囲をダラダラする程度なのに、たまたま見かけた美少女
中学生(自転車)を追いかけて、彼女の学校まで何十分も走ってしまって、翌日からは筋肉痛で外に出ることさえできな
い、みたいな。僕の読書能力はその程度のものだ。
 というわけで魅力的な美少女との交歓だったわけだけど、しかしそれはあまりに夢のような時間だったので、どこがど
うよかったか、と訊かれてもなかなか答えられないのだ。ただ感心、という感じ。
 肝心の女の子の顔についても、思わず追いかけてしまいはしたわけだが、それは実に表現しにくい顔立ちなのであ
る。説明できない。かといって、どの角を曲がってどの道を通って、みたいなことを言ったって仕方ないだろう。無味乾
燥なあらすじを語ったって、これの魅力はぜんぜん伝わらない。
 そんなわけで、途中で抜け出せないほど愉しい時間を過ごしたのは間違いないが、それを伝えるのは難しい。お前も
あの子を追ってみなよ、としか言えない。
 そういうものなのだ。『白夜行』のときもおんなじだった。

 ……一週間の読書が小説一冊で、しかもそれはきわめて語りにくいと来ている。ひどい。
 小学生のときの読書感想文で、「感想文はあらすじを書くものではない」とよく注意されたが、それってつまりこういうこ
とだったのだな。
 来週はたっぷり時間ができると思うので、いつも通りに雑多な読書ができればいいと思う。



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